ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

「余裕ができたら事業をシフトしたい」は、基本的に無理です。【no.0576】

 「いまはこっちの事業をメインで行っているんだけども、いずれ(近い将来は)あっちの事業に切り替えていきたい(いくように考えている)」という会社があります。

 よくある話です。「いまはWEBサイトの受託開発の会社をやっているが、独自のサービスを立ち上げて、そちらをメインにしたい」というものや、「いまはメーカー卸をやっているが、ECサイトを立ち上げての直販をメインにしていきたい」というもの、はたまた「いまは人材派遣での収益がメインだが、いずれはWEBサービスの会社に切り替えていこうと思っている」というような、はたからみると「いまの事業と全然関係ないじゃん!」というものすらあります。

 相談や異業種交流会、紹介などの機会で「どんな事業をされているんですか?」と聞くと、この手の答えが返ってくることが、しばしば見受けられます。気持ちはわかります。「自分が本当にやりたい事業」を始められるようになるまで、そして軌道にのって収益化するまで、会社を回していかなければいけませんから、ひとまずの収益の柱を用意しておかなければいけないわけです。

 特に、起業したばかりの頃は、「やりたい事業を始めるまでは、なんとか前職の仕事の資産で」という方が多いでしょう。そういった方のコーポレートサイトの会社概要を見ると、事業概要に「ゴルフ場のコンサルティング事業」「ゴルフ関連商品の企画・開発・卸業」「ゴルフ関連商品のEコマース事業」の他に、「金融業のITシステムの受託開発」みたいな「関係のないもの」が含まれていて、少し違和感をもってしまうこともさえあります。

 経験上ですが、この「本当にやりたいことはあるんだけど、いまは収益性のあるこちらで」のパターンは上手くいかない可能性が高いように感じます。もちろん、例外もあります。しかし、「余裕ができたら始める」では、ほとんどの場合、「ずっと余裕もできないし、ずっと始められない」というパターンに陥ることになります。

 そこにはいくつかの理由があると思います。

 まず、「余裕ができたら」の「余裕」の意味するところは、「時間と利益」の「余裕」です。「余裕」を得るためには、まず仕事を増やさなければいけません。仕事が増えると「利益」は増えても「時間」は減ります。スタッフを増やせば、「利益」は減って「時間」は増えるかもしれません。しかし、管理の時間は増えます。そう考えれば、そもそも「余裕」なんてものはできないのです。

 同じように、「まずはこちらを収益の柱に」の方を成長させると、社内に「まずはこちらに」事業を運営するサイクルができあがります。もちろん、「まずはこちらに」事業とて市場があり、競合がいるわけです。真剣に取り組まなければ収益が上がらなくなってしまいます。そうすると、社内により「まずはこちらに」事業の環境と習慣が固まってきます。そうなると「いずれあちらに」事業へのシフトが伸び伸びになってしまうのです。何度も「いずれあちらに」事業の準備会議が開かれますが、いずれも単発でポシャってしまうパターンです。

 「いずれあちらに」事業に「時間とお金」を投資し続けるためには、「まずはこちらに」事業がその分「高収益事業」でなければいけません。「まずはこちらに」事業を専門で行っている企業よりも、高付加価値のサービスを提供しなければいけないわけです。競合は甘くはありません。ましてや「まずはこちらに」事業一本で勝負をしているわけです。「いずれあちらに」事業を忘れて、「まずはこちらに」事業に注力せざるを得なくなります。でも、実はそれはそれで良くないですか?

 そう。「いずれあちらに」事業を忘れればいいんです。このパターンで「いずれあちらに」事業へのシフトの難しさに気づき、「まずはこちらに」事業に注力して大成功した会社をいくつも知っています。「余裕ができたらこちらに・・」なんて、実は考えない方がいいのです。

 もし、「本当にやりたい事業」があるのなら、最初からそれ一本でやるべきです。そうでないと、上記と同じ道を辿ります。もしくは、半分の時間は「いずれあちらに」事業に必ず使う、一定の資金は「いずれあちらに」事業に必ず使うと神に誓い、どんなことが起ころうが徹底をし続けることです。

 おわり。

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ishida

石田 麻琴 / コンサルタント

株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。中小機構販路開拓支援アドバイザー。