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楽天市場「全店舗共通の送料無料ライン」の狙いとは?【no.1760】

 少し前のことになりますが、楽天グループの「Rakuten Optimism 2019」内「楽天市場 戦略共有会」にて三木谷社長が楽天市場の送料無料ラインを「3,980円」に設定することを明らかにしました。

 これは楽天市場の「ワンデリバリー」構想の一環。2020年の2月~3月を目途に、送料無料ライン「3,980円」を全店舗共通で実現するというもの。これまで送料無料ラインの設定は楽天市場に出店している各店舗に任されてきましたが(当然、送料無料ラインがない店舗もある)、来年からどの店舗で購入しても3,980円以上は送料無料になる―――つまり、楽天市場のシステム上で送料無料ラインが管理されるということになります。

*楽天市場出店店舗からの逆風

 この「全店舗共通の送料無料ライン」については楽天市場出店店舗に事前の承認を得たわけではありません。この「Rakuten Optimism 2019」もしくは楽天市場からのメールで知ったという出店店舗も多いようです。「本当にやるのか?」と逆風が吹いています。

 それもそのはずです。一般的に出店店舗がお客様からいただいている送料は(発送場所、お届け場所によって異なりますが)平均して800円~1,000円ほどになります。送料無料ラインが3,980円となると、その約20%が出店店舗の送料負担ということになります。もちろん、楽天市場への販売手数料がなくなるわけではありませんから、これに加えて10%~15%ほどの経費がのってくることになるのです。

 となると、3,980円の売上に対して、出店店舗が確実に負担をしなくてはいけないのが、売上の35%~40%。ここには人件費や広告費、梱包資材費などは含まれません。小売りの出店店舗の場合、商品原価が50%強のところが多いと考えると、送料無料ライン3,980円でほぼ利益が出ないことになります。

*楽天市場の狙いは何か、本気でやる気なのか

 楽天市場の出店店舗で全品オリジナル商材のEコマース運営をおこなっているところは多くないはずです。販売商品の全品が仕入れの商品、もしくは一部が仕入れの商品という出店店舗が多いでしょう。場合によっては完全に利益が出ないモデルになるわけですから、楽天市場を撤退せざるを得ない出店店舗もあるはずです。撤退を検討する出店店舗を含めると、1割や2割では効かないでしょう。ただ、楽天市場側もそこは十分理解をしているはずです。

 楽天市場が気にしているのはAmazonの存在です。Amazonの場合、年間3,900円のAmazonプライム会員費を支払えば送料が無料になります。Amazonでは「出店店舗」という概念が楽天市場に比べ稀薄なので、お客様としては「ほぼどの商品を購入しても送料が無料になる」という認識です。少なくとも、販売ボリュームが多いと思われる主要な商品に関しては、ほぼプライム化が進んでいます。楽天市場はAmazonとの日本のEコマースのシェア争いにおいてここをポイントだと考えているようです。

 また冒頭に書いたとおり、今回の「全店舗共通の送料無料ライン」の設定はあくまで楽天市場の「ワンデリバリー構想」の一環です。楽天市場としての本丸は「送料無料ライン」ではなく、楽天市場独自の「物流網」を持つことでしょう。現に、楽天市場は独自の倉庫に出店店舗から商品を集め、店舗をまたがった購入を一括発送する方針を打ち出しています。おそらくですが、出店店舗は楽天市場の物流を利用すれば送料負担が軽減されるはずです。ただ、こちらはこちらで出店店舗に負担がありますが。

 ―――最後にもう一点。今回の送料無料ラインの発表は過去の楽天市場の発表の中でも、もっとも出店店舗に影響が出るひとつだと思いますが、あくまで出店店舗内だけの話題で一般的にあまり話題になっていないように感じます。もしかしたら世間一般の注目度も「もはやそんなもん」なのかもしれません。

カテゴリー: 0.ECMJコラムALL, 6.Eコマースの悩み

ishida

石田 麻琴 / コンサルタント

株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。中小機構販路開拓支援アドバイザー。