ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

EC事業拡大期におけるマーケティング施策【no.2049】

 今回のコラムでは「EC事業拡大期におけるマーケティング施策」についてお話します。

最終的な行先はネット広告の活用

 EC事業を成長させるために欠かせないのが広告の活用です。前提として売れ筋商品(ヒット商品、メガヒット商品)の把握。売れ筋商品のコンバージョンを最大限高めておくこと。検索対策やソーシャルメディアの活用など「頭をつかって汗水をながして」マーケティングを展開する習慣をつけておくこと。これらが大切ですが、最終的な行先は広告の活用になります。

 売れ筋商品があり、ある程度のコンバージョンが見込める状態をつくる。これができれば、商品やサービスを知っている人を増やすことが事業拡大のポイントになるからです。そして検索対策やSNS活用といった「知恵やアイデア」を使って拡散する方法ではなく、「お金をつかってお客様に知ってもらう」そして「利益をお客様に知ってもらうために再投資する」サイクルをつくっていくことが必要になるのです。

商品原価率が低い方が広告戦略に向いている

 広告投資をおこなうために理解しておきたいのがCPAとLTVの考え方です。CPAは「コスト・パー・アクイジション」のこと。日本語に訳すと、「成果の1件あたりの獲得コスト」です。100万円の広告投資に対して、1,000件の注文が取れたとすれば、CPAは100万円÷1,000件で「1,000円」と計算することができます。

 LTVは「ライフ・タイム・バリュー」で、日本語では「顧客生涯価値」と表されます。お客様が生涯で合計していくらオンラインショップにお金をつかってくれるのか。この想定値です。この「生涯で」というところがポイントです。EC事業の場合は「お客様がサービスから離れてしまったのか」がわかりません。1年2年オンラインショップを利用しなくても、思いついたかのようにポッと利用を再開するケースもあるのです。LTVは新規顧客の範囲をせばめ、特定のお客様がその後どう推移しているのかをみていきます。

 広告投資をおこなう際、CPAとLTVを頭に入れておきましょう。当然、CPAは低ければ低いほどEC事業にとっては良いことです。LTVは高ければ高いほどEC事業にとって良いことです。もしCPAとLTVの基準をつくるとするならば、それは販売している商品の原価率です。商品原価率が高いか低いかによって、許容されるCPAとLTVが変わってきます。もちろん商品原価率が低い方が、より広告戦略に向いているといえます。

ECだからネット広告と決めつけないこと

 もうひとつ。ここでは「広告投資」という言葉を使っています。この広告投資はインターネット広告だけを指すものではありません。新聞や雑誌、テレビやラジオなど既存メディアやイベントや展示会出展などによる販促も広告投資の中に含まれます。ECだからインターネット広告、と決めつけるのではなく、自社のユーザーに合った広告投資先を探していく。広い目線で集客戦略を考えていきましょう。

 ただし、必ず広告投資に対する効果を検証しなければいけないということです。広告は「=お金」ですから、利益の中から使っているのと一緒です。そういった点でいうと、インターネット広告は非常に効果検証がしやすいマーケティング方法だといえます。

コロナ禍によって売れ出した商品

 ECは市場環境の変化や競合の動きが自社の売上に大きく影響するビジネスです。今回のコロナ禍によって多くの商取引が電子化されていきました。いままでの「対面して会議」「店舗にいって商品購入」がガラッとオンライン化していった。これは皆さんも体感されていると思います。実際に2020年4月の緊急事態宣言以後は、アクセスや売上が数倍になったというECも少なくありません。

 コロナ禍によって売れ出した商品として「筋トレグッズ」があります。緊急事態宣言や自粛ために多くのフィットネスジムが休業、営業時間短縮になりました。また、様々な人が集まるフィットネスジムに行きたくないという思考もあります。自宅で身体を鍛えるというニーズが高まったのです。在宅ワークで身体がなまっているという新しいニーズもあったのかもしれません。とにかくECにおける「筋トレグッズ」のニーズが一気に高まりました。

「自社はこうだ」と決めつけない姿勢も大切

 逆に、コロナ禍によってニーズが下がってしまった商材もあるわけです。EC事業を展開する上で「自社はこうだ」と決めつけない姿勢も大切なのかもしれません。オンラインショップの「差別性」「付加価値」とも関わってくる話です。仮にオンラインショップのコンセプトが「シニア女性のためにナチュラル系グッズ」だとすれば、外出需要もご自宅需要も「商品力×提案力」で両方ともカバーすることができます。これが「パーティー用ドレス専門店」だと外出需要しかカバーできません。市場環境に対応したEC事業をつくっていきたいところです。

 そして同じように重要なのが競合対策です。ECの特徴のひとつは「オンラインショップ同士の比較が容易」であることです。実店舗ならば「時間とお金をかけて様々なお店を回るより、少し高くてもここのお店で・・」「違う店舗にいってみて在庫がなかったら戻ってこなきゃいけないし・・」というような思考が働きます。しかしECではスマホやパソコンをクリックするだけですぐに他のショップにアクセスすることができます。

まずは競合の情報を共有する時間をつくる

 「わからないことがあったら何でも聞いてください!」的なオンラインショップがあります。しかしお客様は「わからないこと」があってもショップには連絡をしません。「わからないこと」について説明をしているオンラインショップを探すだけなのです。

 たとえば、「このお店、在庫数が8コまでしか買えないけど100コ買いたいんだけどな・・」と思ったなら、まずは「まとめ買い、業務用のご対応もできます」と表記してあるオンラインショップを探します。お客様はできるだけ自力で解決しようとするのです。それが競合オンラインショップへの遷移になります。

 EC事業を成長させるためには定期的に競合のオンラインショップをチェックすること。その中でどこが「選択動機」になりえるか、を考えなければいけません。まずは定例の会議で競合の情報を共有する時間をつくるところから始めてください。

「顧客軸のマーケティング」の考え方

  デジタルの登場で実現可能になったのが「顧客軸のマーケティング」です。そしてその「顧客軸のマーケティング」を実現することができる最たるもの。それが、我々が日々取り組んでいる「EC」だとも言えます。従来のマーケティングでは「顧客軸のマーケティング」は実現が不可能でした。

 たとえばコンビニエンスストアを想像してみてください。私たちがコンビニで商品を購入するとき、コンビニ側が私たちを「新規顧客かリピーターか」を判断する方法がありません。厳密にいえば「ありませんでした」ですが、従来はなかったわけです。コンビニではレジのエンターボタンが「年齢の区分け」になっており、コンビニの店員さんが「この方は20代の女性かな??」と想像して、「20代女性」のボタンを押していたのです。

 コンビニで「お客様」についての情報が残るのは「20代女性」ぐらいです。他の情報としては「何を購入したか=受注データ」しか残りません。ですから、「今回コンビニで購入したお客様が新規顧客なのかリピーターなのか」「リピーターであれば何度目の来店なのか」「前回購入した商品は何だったのか」などのマーケティング分析については完全にブラックボックスでした。

デジタルとインターネットが生んだ転換

 従来のマーケティングは、売れた商品を分析して、売れ筋商品の露出をさらに強めたり、データをもとにした新商品を開発したりという「商品軸のマーケティング」だったわけです。ただ、「今回コンビニで購入したお客様が新規顧客なのかリピーターなのか」「リピーターであれば何度目の来店なのか」「前回購入した商品は何だったのか」これらはECのマーケティングではすべてデータでわかってしまうことなんですよね。デジタルとインターネットが生んだマーケティングの転換です。

 「顧客軸のマーケティング」が重要になる理由には時代背景も考えられます。日本の人口が増える時期は終わり、大量生産大量消費の時代はとうに終わっています。また情報社会の到来によりお客様の価値観やニーズが多様化しています。広くお客様を増やすよりも、お客様を深く保つ方にマーケティングがシフトしています。

 まずは「顧客軸のマーケティング」の概念を頭に入れておいてください。

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石田 麻琴 / コンサルタント

株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。中小機構販路開拓支援アドバイザー。