ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

ビジネスにはレールもなければ、カーナビもない。【no.0438】

 ネットショップのあるあるストーリー、「鬼切社長シリーズ」。(前回はこちら

 「そりゃ、買うわな」。猪井氏(いいし)先生はそう言うと、鬼切社長の方をギロリと睨み返しました。

「鬼切はん。実店舗っちゅうのは、いつお客さんがお店に入ってきたか、いつお店から出ていったかが、見てればわかる。でもな、パソコンでネットショップをじーっと眺めとっても、いつお客さんが入店してきたのか、いつお客さんが退店していったのかって、わからんじゃろう。普通の実店舗だったら、お客さんの動きの履歴として残るのは、買ったお客さんだけじゃ」

 鬼切社長は猪井氏先生の話を終わりまできちんと聞いて、それから猪井氏先生に質問をしました。

「もちろん、猪井氏先生の言っていることがわかりますよ。でも、それがネットショップを運営していく上でどんなメリットがあるのかってのがわからないんですよ。売上、注文件数、客単価、このあたりは実店舗でも取ってますし、その重要性はなんとなくわかりますよ。でも、アクセス人数と転換率を取ることが、どんな意味を持つのか、ってことがちょっと・・」

 「なるほどな」。猪井氏先生は呟きました。「鬼切はん、ちょっと難しい話をするけど、ええか?」。猪井氏先生は、さっきまでの「にらむ」という感じではない、真剣で真っ直ぐな眼差しで鬼切社長の目を見ました。鬼切社長はその雰囲気に圧倒され、「あ、はい、どうぞ」とだけこたえました。

「鬼切はんはな、まだ本格的にネットショップを運営しとらんからわからんかもしれないけど、『数字を取る』ってのは、『指標』なんじゃ。普段、ネットショップの売上をあげるために頑張って仕事をしたことが、『良かったのか、悪かったのか』を知るための、コンパスみたいなもんじゃ。ここ、仙台じゃけど、北海道に行きたかったら、北の方に歩いていかなきゃいかんじゃろ。南の方向に歩いていくと福島の方に行ってしまう。西の方に歩いていったら山形じゃ。ビジネスには引かれたレールもなければ、カーナビもない。正解も不正解もわからないまま、日々試行錯誤を繰り返していかなきゃいけないわけじゃ。ただし、『数字』というコンパスはある。そのコンパスを見ながら、『進みたい方向』に動けているのかを確認するわけじゃな」

 「なんか、猪井氏先生がおっしゃりたいことがわかった気がします」。鬼切社長は言いました。

「まあ、これはネットショップの運営を始めてから、より理解してくれればええ話じゃ。売上、注文件数、客単価、それにアクセス人数と転換率っていう、数字の項目があることだけ、今は覚えといてくれ。会計数値と事業数値の話はここまでじゃ。さてと、今日の打ち合わせはここらで終わりじゃ。これからはいよいよ、おにぎり水産の新しいネットショップを立ち上げるための動きに入っていく。こっからが本番じゃな」

 「いよいよ、新しいおにぎり水産のネットショップが始まる」。鬼切社長に緊張が走りました。

「ちょっと、1点確認なんじゃけど。これからもワシとお付き合いする方向で大丈夫なんじゃよな?」

 いきなり突拍子もない質問がきたので、鬼切社長は驚きました。

「いや、もちろん、そのつもりですが。というか、うちのネットショップの成功は猪井氏先生にかかっていると言っても過言ではありません・・」

「鬼切はん、何言うとんねん。ワシにかかってるんじゃなくて、ネットショップの成功は鬼切はんにかかってるんじゃぞ。自覚を持たんと。まあ、良かったわ。そしたら、再来週、うちの会社の麻間(あさま)ゆうもんをここに来させるわ。技術的な部分は麻間が詳しいじゃろうから、ネットショップをどうやって作っていくか相談するがええ」

 「はい。わかりました」。鬼切社長は手帳を取り出して、再来週の予定を確認しました。

「それと、次回までの宿題じゃ。麻間との打ち合わせまでに用意せいよ。ひとつは、おにぎり水産の新しいネットショップの責任者を誰にするか。もうひとつは、おにぎり水産の笹かまぼこを5,000円で売るためにはどうすればいいか。この2つじゃ。すぐに結論は出んかもしれんが、考えといてな。一歩一歩、着実に、じゃ」

 猪井氏先生はそう言いながら、荷物を簡単にまとめると、「ほな」と言って会議室から出ていってしまいました。あまりのスムーズさに、鬼切社長は見送りもできませんでした。

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ishida

石田 麻琴 / コンサルタント

株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。中小機構販路開拓支援アドバイザー。