ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

「割り算」より「足し算」のデータ指標を優先する【no.2090】

 ネットショップを運営する際のデータ指標はふたつのパターンがあります。

 ひとつがセッション数や注文数のように「足し算」で計算されるデータ指標。もうひとつがCVR(転換率)や直帰率のような「割り算」で計算されるデータ指標。EC運営のデータ活用をおこなう際、前者の「足し算」のデータ指標をより優先する方がよいです。

 つまりリピート率よりリピート数をみよう。今回のコラムはそんな話。

イチローさんが選手時代に考えていたこと

 以前、当時ビービットの執行役員だった宮坂祐氏と対談したとき、宮坂さんが一番興味をもってくれたのが「イチロー」の話でした。日米の野球界に大きな足跡を残したイチローさんが、選手時代に何を考えていたのか。NHKか雑誌か、なにかのメディアで取り上げられていた話です。

 試合がはじまった時、イチロー選手は「今日は4の2でいこう」「今日は5の3でいこう」と考えていたといいます。この「4や5」は打席数、「2や3」は安打数です。野球に詳しくない方には少々わかりづらいかもしれません。

 イチロー選手といえば、「安打数」「打率」での成績が有名ですが、日々の試合では「足し算」のデータを常に考えていたようなのです。

「割り算」のデータは実はわかりづらい

 このメディアでは、「なぜ足し算のデータを考えるか」については言及されませんでした。おそらく「足し算」のデータを意識する方が、自分の行動として「わかりやすい」のだと思います。

 「打率」はネットショップでいえばCVR(転換率)です。「割り算」で算出されるデータです。「割り算」のデータは、その分母と分子の関係でデータが上下します。分子の数が増えればデータが上がるだけではなく、分母の数が減ってもデータが上がります。分子の数が減り、同じように分母の数も減ると、データが変わらないこともあります。データとしてはひとつですが、その要因が実はわかりづらいのです。

 イチロー選手も「今日は3割の打率を3割1分にしよう」と考えて試合に臨んだならば、はたして自分がどういう行動をすればいいのか混乱してしまうでしょう。ネットショップの「割り算」のデータも同じことが言えます。

「足し算」のデータは行動に落とし込みやすい

 「打率」がECでいうCVR(転換率)ならば、「安打数」はECでいう注文数です。注文数は「足し算」のデータですから、積み重ねれば積み重ねるほど良いはずです。積み重ねるほど、最終的なゴールである「売上」が伸びていくはずです。そして、「足し算」のデータの方が、自分の行動に落とし込みやすいはずです。この「自分の行動に落とし込める」というところがポイントかもしれません。

 冒頭の文章で「リピート率」と「リピート数」について書きました。「リピート率」が上がった。データが伸びたのはよいことですが、果たして内訳はどうなのか。「リピート率」の計算式はおおまかにいうと「2回目購入÷既存顧客」になります。初回購入をしてくれたお客様が2回目購入をしてくれているのかを調べるデータ指標です。

 もし仮に、「リピート率」が上がっていたとします。「2回目購入者」が激増し、「既存顧客」も増えたデータアップなら問題ありません。しかし、「2回目購入者」が減り、「既存顧客」が激減した。こんなケースでも「リピート率」は上がってしまうのです。

「足し算」の勝負ができるようになること

 「割り算」のデータは注意が必要です。データが上下したとしても、その裏側をしっかり見ないと事実を掴むことはできません。ですから、日々の行動につなげるのも容易ではありません。パッとみて良し悪しを判断し、次の行動につなげるならば「足し算」のデータがベストです。もっといえば、「足し算」の勝負ができるようになった時点でEC事業は成功しているともいえます。多くの企業が「足し算」の勝負ができるようになる前にEC事業を諦めてしまいます。

 「受注件数」「セッション数」「リピート数」「新規顧客数」「定期購入者数」「退会者数」など、「足し算」のデータを指標により役立ててください。

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石田 麻琴 / コンサルタント

株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。中小機構販路開拓支援アドバイザー。