マーケティングゼミで得た学び「伝えるより、創る」【no.2214】
先日、とある勉強会で講師を務める機会をいただきました。
前半75分、後半80分、合計155分という、これまで経験したことのない長時間のゼミ形式の勉強会です。テーマは「顧客に選ばれるデジタル時代のマーケティング」。インターネットに限らず、リアル店舗やBtoB営業までも含めた広義のマーケティングを対象とする内容でした。
*ゼミ準備の試行錯誤と現実
今回のゼミの難しさは、ゼミ参加者の多様性にありました。BtoCの企業もあれば、BtoBの企業もいる。デジタルを積極的に活用している会社もあれば、そうでない会社もいる。そのような皆さんがいる中で、全員にとって価値のある時間にするにはどうすればよいか。さらに155分という長い時間をどう構成するか。ゼミまでの1ヵ月間、悩みに悩み抜いた末、ゼミ参加者中心のディスカッション形式を基本としながら、要所要所で講師として「マーケティングの原理原則」を伝える、というプログラム構成に決めました。
当日、実際にゼミが始まってみると、自分の想定とは大きく異なる展開になりました。最初の自己紹介やゼミの趣旨説明だけで、前半の75分のうち約50分を消費。残り25分弱を使って、BtoB企業の参加者の方に前に出ていただき、インタビュー形式で事例の共有をしてもらいました。このインタビューが思いのほか盛り上がり、後半80分の冒頭15分もその続きをおこなうことにしました。そして、インタビューの内容を踏まえての「自社の業界トレンドや顧客との接点の変化」についてのグループディスカッションで、また時間が過ぎていきます。
*落ち込む中、思わぬ展開が・・
その後残り30分ほどの20分強を使って、BtoC企業の参加者の方にも同様のインタビューをおこない、実質的に私が用意していたスライドのうち、2〜3割しか使えないまま、残り時間が10分を切ってしまいました。このゼミをどうやって締めくくるか。苦肉の策として、最後に各チームで「今日の気づき」を一言ずつ話してもらうという構成に変更しました。全体に共有する「まとめ」のプレゼンは割愛し、あくまでチーム内での共有にとどめました。
ここで思ってもいなかった出来事が起こりました。
私が座る講師席のすぐ近くのチームから「このゼミ、構成がとても考えられていて驚きました」という声が上がったのです。ゼミが終わった後にも「(再度同じテーマでのゼミが開催される)2月の次回もぜひ来たい」「他の人の事例ももっと聞きたかった。勉強になった」という声を多数いただきました。
私は正直、自分の話したかった内容のほとんどが伝えきれなかった、という気持ちで落ち込んでいました。けれども、参加者のみなさんにとっては「これで良かった」・・いや、「これこそが良かった」そのことに気づかされたのです。「自分の出番が少なかった」「用意してきたスライドがほとんど使えなかった」というのは、ある意味の敗北感にも似た気持ちをもたらしました。しかしそれは、「講師が伝えなければならない」という思い込みだったのかもしれません。
*「伝えるより、創る」ということ
マーケティングも同じなのかもしれません。伝えたいことを一方的に発信しても、人は動かない。むしろ、相手が伝えたくなる場をつくる。気づきを引き出す。そのための仕掛けを設計することこそが大切なのだと、今回のゼミを通して改めて感じることができました。
自分に求められた役割は「伝えること」ではなく「場を仕掛ける(創る)こと」だったのです。参加者同士が語り合い、気づきを持ち帰り、次に向かいたくなるような体験をどう作るか。今回の学びは、コンサルティングにも、社内育成にも、広く応用できる本質的な発見だったと思います。今回のゼミは、講師である私自身も学び、価値観を変えることができた機会になりました。
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