ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

AIの言葉は軽い。だから人間の「出の力」が問われる【no.2236】

 以前のECMJコラム(no.2218)で、AIが一般化していく時代において重要なのは「入り」と「出」であるという話をしました。

 「入り」とは、小さな情報や身の回りの出来事から、市場の変化・トレンドの兆し・お客様のニーズの変化などを感じ取る「気づく力」のこと。AIが過去の膨大な情報を学習して回答を導き出すものである以上、リアルな空気感や日常の違和感から新しい兆しを察知する力は、これからも人間の感性に大きく依存します。だからこそ、ビジネスにおいてはこの「入り」が人間の価値を決定づけるポイントになる、そうお伝えしました。

 今回は、もうひとつの側面である「出」の話です。

*AIの回答、行動に移している??

 AIが一般化し、私たちの身近な存在となってきた今、多くの人が「AIに相談する」「AIにプランを出してもらう」という形でのAI活用を始めています。しかし、AIが出してくれた提案やアイデアを「実際に行動に移している人」は驚くほど少ないのではないでしょうか。

 AIに「プランを出して」と依頼し、返ってきた回答を読んで納得し、満足する。しかしその後、実際に動いてみたかと言われると、ほとんどの人は動いていない。ここに実際の「出」との大きなギャップがあるように感じます。

 もちろん、AIが直接的に「出」をサポートする領域もあります。たとえばプログラミングのコードを書いてもらう、文章の文法を整える、契約書の法的リスクをチェックするなど、すでに「正解」がある程度決まっている領域ではAIは直接「出」に繋がります。こうした作業をAIに任せることで、人間は時間を節約し、より本質的な判断や創造に集中することができます。

 しかし一方で、「AIにアイデアを出してもらう」「AIに次の一手を考えてもらう」といった領域になると、話は別です。AIが出してくれる回答を、人間はどうしても「軽く」感じてしまうのです。

*AIから「貴重な意見を得た」になりえない理由

 その理由のひとつはおそらく回答スピードの速さにあります。

 AIは人間の質問から数秒で回答を出してくれます。これまで、人は時間をかけて考え抜いたものほど重みを感じてきました。AIが一瞬で出してくれる提案に「ありがたい」と思いつつも、どこか「軽い」ものと感じてしまい、行動に移しづらくなるのです。「貴重な意見を得た」という気持ちは、おそらく人間にはないでしょう。

 もうひとつは「誰が言うか」の問題です。

 同じ言葉でも、信頼している上司や尊敬する仲間に言われた言葉なら心に響く。けれどもAIに言われた言葉は「正しい」かもしれないけれど、どこか重みがない言葉に聞こえてしまう。だから行動に移されづらい。やはり同じように、「貴重な意見を得た」感はありません。これが「AIの言葉が軽い」理由です。

*そもそもAIが無くても行動する人はする

 しかし実はこの「行動するかしないか」はAIの問題ではなく、人間の問題です。AIがいいアイデアを出そうが出すまいが、「行動する人」は行動します。人類にAIがなかった時代(つい最近まで)、人は自分で考え、仮説を立て、失敗を積み重ねながら前に進んできました。つまり本質的には、AIがあってもなくても「出す人は出す」し、「出さない人は出さない」わけです。

 そして、そもそもAIに「アイデアを出してもらう」こと自体が、少しズレているのかもしれません。以前のコラムでも触れたように、AIとは人間の「思考と表現の分離」を可能にするツールです。これからも考えるのは人間であり、その表現を補助してくれるのがAIです。だから、AIに「出してもらう」のではなく、自分が「出す」と決めたうえでAIを使う。すでに自分の中で「行動」を決めている人間だけが、AIを正しく使いこなせるのではないでしょうか。

 AIは考える道具ではなく、考えたことを「形にする」ための道具なのです。どれだけAIが精度の高い答えを出しても、行動に結びつけるのは結局人間の意志。AI時代に求められるのは「何を出すか」「どこまで出せるか」。より「出す人間」が強い時代になった。そう言えるかもしれません。

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    ishida

    石田 麻琴 / コンサルタント

    株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。情報産業経営者稲門会役員。日本道経会理事。 UdemyにてECマーケティング講座配信中。 こちらから