ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

表向きの「権利」が、裏側の「戦略」になるとき【no.2238】

 あるコンサルティング会社の契約条件に、少し変わった条項があるそうです。

 クライアント企業が契約を結ぶ際、「この3社とは契約しないでほしい」と競合企業を3つまで指定できる、というもの。自社がコンサルティング会社と契約した時点で、競合3社までを「ブロック」できる権利を持つ、という仕組みです。

 これは一見するとクライアントにとって非常に魅力的な条件です。自社のライバル企業が同じノウハウを受けるリスクを回避できる。ところがよく考えてみると、この制度は実はコンサルティング会社側にとって、極めて大きなメリットを生み出す仕組みになっている気がするのです。

*コンサルティング会社側の「狙い」とは

 まず1つ目のメリットは、「競合の明確化」です。

 クライアントが「契約してほしくない3社」を指定することで、コンサルティング会社はその企業がどの会社を競合と認識しているのかを把握することができます。「市場の中での立ち位置」や「比較軸」を、契約段階で具体的に知ることができる。競合を明確にできれば、その差別化戦略や提案の方向性を精緻に組み立てることができるわけです。この1つ目については誰しもが気づくメリットでしょう。問題はここからです。

 2つ目のメリットは、「契約の線引きの確保」です。

 契約するクライアントに「ブロックできる3社」と指定させることで、裏を返せば「それ以外の会社は契約しても構わない」という承認を暗黙のうちに得ていることになります。もし競合が5社あったとしても、クライアントはそのうちの3社しか指定することができません。つまり残りの2社については、コンサルティング会社が新たに契約を結んでも、文句を言われる筋合いがない。この仕組みによって、業界内の営業範囲を自動的に広げることができるわけです。

 そして、3つ目のメリットは、「契約継続の抑止力」です。

 クライアントによって契約期間中はブロックされている3社も、その契約が終了すれば解放されることになります。つまり、契約を解約した瞬間から、その3社もコンサルティング会社の営業対象になる可能性があるわけです。もちろん、モラル的な問題はあるものの、クライアント側からすれば「解約したら、競合に同じ知見が流れるかもしれない」という懸念が生まれることになります。結果として、この条項そのものが「契約継続の心理的ロック」として機能するのです。

*表向きの価値と本質的な価値のズレ

 この仕組みは本当に秀逸です。一見クライアントにメリットを与えているようでいて、実は情報の取得、営業活動の線引き、契約の継続という3つのメリットを自社にもたらしています。

 ビジネスの本質は「表向きの価値と本質的な価値のズレ」をどう設計するか。もちろん、この仕組みをそのまま真似しようという話ではありません。重要なのは、「自社の施策や制度は、本当に自社にだけメリットがあるものか?」「相手にとってのメリットが、実は自社のリスクに転化していないか?」そうした視点を常に持つことではないでしょうか。

 この「3社ブロック条項」は、単なる契約テクニックに見えて、「表面的な善意の裏に、戦略的な設計がある」ということを教えてくれるひとつの事例です。物事の表と裏を見極める目線を持ち、どちらにもメリットがある構造をどう設計するか。それこそが、ビジネスの成熟度を決める視点なのではないでしょうか。

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    ishida

    石田 麻琴 / コンサルタント

    株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。情報産業経営者稲門会役員。日本道経会理事。 UdemyにてECマーケティング講座配信中。 こちらから