ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

EC市場の伸びとEC事業者の伸び悩み【no.2072】

 少し前のことになりますが、経済産業省が「令和3年度電子商取引に関する市場調査」を発表しました。こちらは毎年経済産業省が定点的に発表しています。7月・8月ごろにデーが掲載されるのが定番のようです。ぜひインターネットで検索して閲覧してみてください。

 今回のECMJコラムは、EC市場の伸びとEC事業者の伸び悩みの話です。

110%弱の伸びの物販分野

 「令和3年度電子商取引に関する市場調査」でまず確認したいのがEC市場の伸びです。ECというと真っ先に思い浮かぶのは「物販」ですが、経済産業省発表のデータではECを「物販分野」「サービス分野」「デジタル分野」の3つに分類しています。「サービス分野」「デジタル分野」とは、旅行業やチケット販売などの分野です。このふたつの分野については2020年、2021年はほぼ横ばいといった状況になっています。(サイト参照のこと)

 注目はやはり「物販分野」です。2021年の物販分野のEC化率は「8.78%」となりました。前年、2020年のEC化率は「8.08%」でしたので、前年比110%弱伸びていることになります。統計情報の一覧データに載っている2013年と比較すると、228%の伸びです。経済が下落傾向にある日本の中で、唯一伸びているのがEC市場といっても過言ではない状況です。

「需要<供給」の流れは続く

 ただし、EC市場の伸びよりも早いペースで伸びているのがEC事業者です。ECだけをおこなうEC専業の事業者もそうですし、既存の事業もやりつつECに新しいチャネルを開拓しているEC兼業の事業者も増えています。ネットショップの伸びについては様々なデータがあります。その中でも2019年と2021年を比較したデータだと、わずか3年の間に155%の出店者の伸びになっています。

 ECのカートASPやパッケージの会社が厳密な出店数を発表していない。はたまたオープンソースのECについては出店者数を数えることができない。こんな事情があるので、正式な出店数は図ることができません。ただ、「ECの参入障壁」の低さを考えれば「EC市場の伸び<ECの出店数」になるのは明白です。市場はいつも「需要>共有」の状態から、「需要<供給」に流れていきます。ECは無料で出店できる時代です。まだEC化率が8.78%の現実を考えれば、「需要<供給」の流れは続きそうです。

「既存事業」の保有がポイント

 とはいえ、EC市場自体は伸びているわけですから、EC以外の市場よりもチャンスがあるのは明らかです。しかし、多くの会社のEC事業が伸び悩んでいます。ECサイトをつくることは外部の制作開発会社に依頼をすることで実現できます。ECサイトを立ち上げてから、売上(もっと言えば利益)に繋げるまで。ここにEC事業が伸び悩む原因があるのです。

 大きなポイントは、EC事業にチャレンジする多くの企業が「既存事業」を保有していることです。現在のメインとなっている既存事業を回しつつ、ECを新しい事業の柱として育てる会社が多いでしょう。当然、既存事業は会社の売上・利益のポイントとしてもメインです。組織や人材のリソースの投入についてもメインでしょう。そして既存事業が安定的に回っていなければ、EC事業に力を入れる余裕はありません。

 この「既存事業がある」ということが、会社の安定を支える反面、EC事業が伸び悩む原因になっています。もしかしたらEC事業が上手くいかない理由として「ノウハウがない」「スキルがない」「知識がない」と思っているかもしれません。それは伸び悩む原因のほんの一旦です。多くの会社においてEC事業が伸び悩む理由は、会社としての「取り組み方」にあるのです。(つづく)

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石田 麻琴 / コンサルタント

株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。中小機構販路開拓支援アドバイザー。