暗闇の的を狙う──データが教えてくれる「次の一手」【no.2220】
ECにおけるマーケティングの取り組みを「『暗闇』での的当て」にたとえてお話することがあります。こちらはボールを投げることはできるけれど、的の位置は目に見えない。どこに当たったかを知る唯一の方法は、的に当たったときに返ってくる「音」、つまりデータを見ることだという話です。
*実店舗では把握しずらい足跡
多くの会社が「ボールを投げる」ことに夢中になります。新しいキャンペーン、SNSの投稿、セール企画、メールマガジン・・。会議室でアイデアを出しているときは議論が盛り上がり、チームメンバーも前向きな雰囲気になります。しかし、いざ実行に移した後、「音を聞く=データを見る」工程がすっぽり抜け落ちることが少なくありません。つまり、やりっぱなしで終わってしまうのです。投げたボールがどこに飛んだかを確認しないまま、次々とボールを投げているようなものです。
本来、インターネットビジネスの強みは、「音が多く聞ける」ことにあります。たとえ売上につながらなくても、ユーザーがどの段階まで来てくれたかをデータで把握することができます。商品ページまでは見てくれたのか、カートに入れる直前で離脱したのか、それともトップページで離れてしまったのか──。これは実店舗ではなかなか把握できない顧客の足跡です。しかし、データをきちんと確認する習慣がなければ、この貴重な「音」はただのノイズとして流れていってしまいます。
改善施策を「外し続けるリスク」よりも怖いのは、「次につながるヒントを失い続けるリスク」です。成果が出なかった施策にも必ず学びがあります。むしろうまくいかなかった時こそ、なぜ顧客が反応しなかったのかを考える絶好の機会です。その手がかりを逃し続けると、同じような施策を繰り返し、時間と労力を浪費してしまいます。
*「音を聞く」習慣を根づかせるヒント
では、どうすれば「音を聞く」習慣を組織に根づかせられるか。ポイントは、施策を検討する段階で「効果をどう測定するか」を必ずセットで検討することです。単に「来月はメールマガジンを強化しよう」と決めるのではなく、同時に「そのメールマガジンの効果を何で判断するのか」を明確にします。開封率を見るのか、クリック率を見るのか、あるいは売上への転換まで追いかけるのか。指標を決めれば、検証の行動が自動的にセットされます。
ECMJのコンサルティングでは、具体的な仕組みとして「メルマガ管理表」を作成します。配信日、件名、本文、配信通数、開封数、クリック数・・といった要素をひとつのシートに整理し、定例のミーティングで必ず振り返る。これを繰り返すと、組織の中に「投げたら音を聞く」というリズムが自然と浸透していきます。最初は手間に感じるかもしれませんが、続けることで「施策とデータはセット」という文化が形成され、この改善サイクルが日常業務の一部になっていきます。
*要因を整理することが大切
もうひとつ重要なのは、「定例会議の場で必ずデータを確認する」というルールを持つことです。会議の冒頭に数値管理表やデータ管理表を必ず開き、全員で数字を確認する。これを徹底するだけで、会議の雰囲気やメンバーの意識は大きく変わります。施策のアイデアを語る前に「実際どうだったか」を全員で共有する習慣が根づけば、会議が「思いつき大会」ではなく、「要因整理の場」に変わっていくのです。
マーケティングの本質は「要因の整理」です。なぜ成果が出たのか、なぜ出なかったのかをデータを活用して解像度高く理解していくこと。この繰り返しが、組織の判断精度を上げ、次の一手の質を高めます。
結局のところ、暗闇で的を狙う状況は変わりません。しかし、投げた後の「音」を聞き逃さずに整理し続けることで、的の位置が徐々に見えてきます。ボールを投げ、音を聞き、また投げる──。この地道なサイクルを組織に根づかせられるかどうかが、デジタル時代の成長を分ける分岐点になるのです。
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