ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

ニーズをとらえるネットショップの思考法【no.2224】 

 ネットショップを運営していると、どうしても「商品を売る」という発想に縛られがちです。仕入れた商品や自社で製造しているオリジナル商品をサイトに並べ、いかに売上をつくるかを考える。これはEC事業者として当然の姿勢です。売上と利益は商品が売れてこそ成り立ちますから、まず「商品を販売する」という意識が強くなるのは自然なことです。

 しかし、お客様の側に立ってみると少し景色が違います。お客様は「商品そのもの」を欲しているわけではありません。商品を通じて「解決したい課題」や「達成したい目的」があり、その手段として商品を購入しています。

*お客様には必ず「購入理由」がある

 たとえば、ありきたりな話ですが、じゃがいもや人参、玉ねぎを買う人は、野菜が欲しいのではなく「カレーを作りたい」からそれらを買っています。カレーをかき混ぜるためのお玉を買う人は、お玉そのものが欲しいのではなく「料理を上手に仕上げたい」から購入しているのです。つまり、どんな商品にも必ず「購入理由」があり、それこそがお客様のニーズと言えます。

 「商品×目的」の構造をイメージするとわかりやすいかもしれません。中心に「商品」があり、その外側を「用途・目的・課題解決」などが円として取り囲んでいるのです。事業者はどうしても内側の「商品」だけを見てしまいがちですが、お客様は外側の円――すなわち「目的」を中心にして商品を探し、選んでいます。

*ヒントはすでに現場に埋まっている

 では、この「目的」や「購入理由」をどうすれば把握できるかです。そのヒントはすでに現場にあります。お客様の購入履歴の組み合わせや同時購入の傾向、問い合わせやレビューのコメント、あるいは実店舗や営業の現場でのお客様との会話。こうした断片に、必ず「なぜその商品を選んだのか」という理由が潜んでいます。

 前述の例を取るならば、顧客が複数の商品を同時に購入するパターンを分析することで「カレー用のセット需要」が見えてくるわけです。それを踏まえて「カレーセット」としてパッケージ化すると、単品販売のときよりも売上が伸び、在庫の回転も良くなる。お客様が欲しかったのは必ずしも野菜そのものではなく、「カレーを作るために必要な材料一式」なのです。

 こうした発想はマーケティングの基本である「プロダクトアウト」と「マーケットイン」の構造に近いかもしれません。理想を言えば、マーケティングの進め方として市場のニーズから逆算して商品を開発する「マーケットイン」が望ましくはあります。しかし現実的には、中小事業者がいきなりネット用の新商品を開発するのは簡単ではありません。ネットショップ自体が、既存事業の販売チャネルのひとつとして位置づけられることがほとんどです。となると、重要なのは「既存の商品をどう顧客の目的に結びつけるか」という視点になります。

*市場に変化があればチャンスはある

 この視点を持てば、商品の見せ方や販売の仕方は大きく変わります。単に「野菜」として売るのか、「カレーを作るための野菜セット」として売るのか。ベビー用品を「ベビーグッズ」として並べるのか、「出産準備に必要な一式」として提案するのか。同じ商品でも、お客様の「外側の円」に寄り添って提示するだけで、購買の動機に直結するのです。

 そして大切なのは、これを一度きりの思いつきで終わらせないことです。ニーズは常に変化し続けます。だからこそ、日々の購入データ、問い合わせ、レビュー、顧客との会話を組織的に吸い上げ、会議の場で「ここに新しいニーズがあるのではないか」と議論する仕組みを持つ必要があるのです。

 この積み重ねが、商品をただ並べているだけのショップと、顧客に選ばれ続けるショップとの差を生みます。商品は変えられなくても、商品の「意味」は変えられる。商品そのものを売るのではなく、その先にある目的を提案することが、ネットショップにおける競争力をつくるのです。もしもいま、他のショップに差がつけられていたとしても大丈夫です。世の中のニーズが変化する限りチャンスは訪れ続けます。

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ishida

石田 麻琴 / コンサルタント

株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。情報産業経営者稲門会役員。日本道経会理事。 UdemyにてECマーケティング講座配信中。 こちらから