既存事業からのECと、EC発の事業。その構造の違い【no.2246】
今回は、普段のECMJコラムでお話しているEC戦略とは少し異なる「デジタルを前提とした」新しいEC戦略について紹介していきます。
*商品ではなく市場から出発する
一般的なECというと、すでに既存ビジネスとして自社で扱っている商品があり、その商品をネットショップという新しい販売チャネル・商流を使ってどのように拡大していくかを考える流れがほとんどです。これはECMJが支援している多くの会社さんにも共通しています。肌感ですが、世の中の95%以上の企業が「既存商品をネットで売る」という構造からスタートしています。
商品カテゴリーも、価格帯も、ブランドも商品についてはすでに決まっている。その中で「どう競合と差別化するか」「いかにしてお客様に見つけてもらうか」「どう顧客に選ばれ続けるか」を考え、日々のデータを見ながらECサイトに改善を加えていく。これがいわゆる王道のEC運営のプロセスになります。
ただ、残りの5%未満の企業は、まったく違うアプローチを取っています。いわゆる「D2C企業」に多く見られるマーケティングなのですが、彼らの出発点は商品ではなく「市場」なのです。
*「売れる商品」をどうつくるかに注力する
商品を準備する前に、まずは市場を徹底的に分析します。プラットフォームごとのトレンドや攻略方法、SNSやインフルエンサーの動向、YouTubeなどの集客メディアの文化、それらの市場で「すでに売れている商品」や「投稿すれば自然に拡散される商品」「購買の文脈にフィットする商品」を市場側から逆算して探していきます。
つまり、「売りたい商品」ではなく、「売れる商品」から作るという考え方を実践しているわけです。
商品を作るプロセスも既存企業とは根本的に違います。多くの場合、彼らは中国のOEM工場と直接やり取りをし、ブランドのパッケージングを整え、自社で商品を企画して販売します。つまり中間業者を徹底的に省き、原価を下げられる構造を持っています。
*オンラインで戦うための「値付け」
その結果、販売価格も「商品原価の3倍」といった単純な計算式ではなく、「ネットで売るためのマーケティング費用」まで内包した値付けをしています。たとえば、商品原価1,000円であれば販売価格は3,000円ではなく、4,000〜5,000円、場合によってはさらに高く設定をします。その分、広告費やSNS施策、インフルエンサー施策などに投資し、認知の拡大と売上獲得の再現性を高めていくわけです。
一方、既存企業は「リアルで販売する前提」の値付けになっているため、販売価格にオンラインで戦うためのマーケティング費用が十分に乗っていません。当然、ネット以外の販売チャネルとの兼ね合い・しがらみもあります。結果としてネットで頑張って売ろうとするほど「儲かりづらい」という構造的な弱さを持ってしまうのです。
ここで言いたいのは、「D2C的なやり方が正しい」ということでは当然ありません。先に書いたとおり、95%以上の企業にとっては既存チャネルの商品があり、その延長でECをやるのが自然です。ただし、オンラインの世界では「知ってもらうためのコスト」が必要になるという事実を理解しておかなければいけません。
*「EC専用商品」をつくる価値
リアルの値付けをそのままネットに持ち込むと、マーケティング費用が足りないという状況になりやすいのです。結果として「広告まで予算が回らない」「地道にSNを伸ばすしかない」「露出が取れない」という八方塞がりになります。だからこそ、ひとつの選択肢として「ネット専用商品を作る」という戦略が必要なわけです。
既存商品の延長でECをやる一方で、オンラインに最適化した原価構造・価格設定を持つプロダクトを別ラインで作る。これは特にブランド性の高い企業や、LTVを設計しやすい企業には向いているやり方です。
今回のコラムでは、95%以上のEC戦略と5%のEC戦略の違いを紹介しました。特に「値付けの思想」がEC戦略の違いの根幹にあり、ここを間違えるとオンラインでは戦いづらくなってしまいます。既存企業は「既存商品の延長」でネットに挑むのが通常ですが、その制約を理解したうえで「ネット専用の商品構造」を一部取り入れる、これだけでも戦える幅が大きく広がります。
カテゴリー: 0.ECMJコラムALL, 2.Eコマースを続ける, 5.Eコマースの分析
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