ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

広告は「加速装置」、利益を生む仕組みで判断しよう【no.2251】

 インターネット広告の活用は、EC事業を伸ばしていく上で欠かせないものです。

 多くの事業者さんは「広告費はできればかけたくない」と考えていると思います。もちろん、SNSや検索エンジンから自然にお客様が集まってきてくれるなら理想的です。しかし現実には、それらで安定的に集客を続けるのは容易ではありません。

*ネット広告は「再現性」がポイント

 SNSはトレンド次第で成果が変わりますし、検索対策も需要と供給のバランスや検索エンジンの仕様変更で順位が変動します。その点、インターネット広告は「お金を投じれば、一定の集客を再現できる」という強みがあります。再現性があるということは、計画に落とし込みやすいことだといえます。だからこそ、広告戦略をECにおける集客施策の中心に据えるのは間違っていないのです。

 ただし、インターネット広告は「売れない商品を無理やり売るための手段」ではありません。本質的な役割は「すでに売れている」あるいは「ヒットの兆しがある」商品を拡散して、売上と顧客導線を広げるための「加速装置」です。言いかえるならば、ある程度育ち始めた商品(ネットショップ)を一気に飛躍させるのがインターネット広告の役割なのです。

*ROAS評価の落とし穴

 このとき、多くのEC運営の現場がつまずくのが「広告の評価軸」です。広告代理店さんから必ず出てくる指標に「ROAS(広告の費用対効果)」があります。ROASの計算式は、「広告をかけたことにより得た売上÷広告費」です。たとえば、10万円の広告で30万円の売上が得られたならば、ROASは300%となります。数値としては分かりやすいのですが、実はこの数字には落とし穴があります。

 仮に先のように広告費が10万円、得られた売上が30万円ならば、ROASは300%です。一見「広告費の3倍売れている」ように見えます。しかし、商品原価率が66%なら、利益率は34%です。30万円の売上に対して、商品原価が20万円で利益は10万円になるので、広告費10万円を引いたら利益はゼロです。もし商品原価率が80%であれば、利益は6万円しか出ません。そこに広告費10万円をかけたら赤字です。

 広告代理店さんは「ROAS200%です」「ROAS300%です」と胸を張って報告してくるかもしれません。しかし、商品の原価率・利益率や顧客のLTV(生涯顧客価値)を考慮せずにROASだけを見ても意味がありません。これは広告代理店さんへのディスではなく、本質的な問題はむしろ、自社がこれらの情報を広告代理店さんに伝えていないことなのです。広告の本当の成否は、利益構造やリピート購入を踏まえて判断しなければならないわけです。そして、それらを考えるのは広告代理店さんではなく「自社」です。

*「LTV×商品原価率」を意識しよう

 では、どう考えればよいのか。鍵は「LTV×商品原価率」にあります。

 ただLTVの算出は簡単ではありません。なぜなら、お客様は「私はここで購入をやめます」と宣言してくれるわけではないからです。当たり前ですが、気づいたら買わなくなっていた、というケースが大半です。なので、LTVは「最低これ以上はあるだろう」という保守的な推定で構いません。たとえば、過去2~3年の平均購買額を目安にして「1顧客あたりのLTVは1万円以上」と見積もる。もし商品原価率が50%なら、投下できる広告費の上限は5,000円。これが「顧客獲得コスト(CPA)」の基準になります。

 そして気をつけたいのは、インターネット広告を打つのは、あくまで「見られて売れている商品」や「初速が良い商品」に絞ることです。逆に「見られていない」「売れていない」商品にインターネット広告をかけても、成果が出る可能性は低くなります。インターネット広告は拡散のための「加速装置」であり、ゼロから一を作る道具ではないからです。

*自社で「判断」できる土台をつくる

 先に書いたとおり最後に強調したいのは、現市場での広告戦略は広告代理店さん任せではうまくいかないということです。広告代理店さんに自社の販売計画やキャンペーンの予定を共有し、広告運用を事業全体の戦略と連動させる。そのためには、社内に広告を理解して広告代理店さんと議論できる担当者を置くことが欠かせません。広告代理店さんを「パートナー」として同じ方向を向くことが成果につながります。

カテゴリー: 0.ECMJコラムALL, 2.Eコマースを続ける, 8.Eコマースの集客

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    ishida

    石田 麻琴 / コンサルタント

    株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。情報産業経営者稲門会役員。日本道経会理事。 UdemyにてECマーケティング講座配信中。 こちらから