著者:石田 麻琴

とあるBtoBの会社がインターネットを活用して事業を拡大する話。五【no.1237】

前回はこちら

「この1か月間、かなり頑張って足を運んで、いろんな情報を仕入れてはみたんですが・・」

 小林は社長の顔を見ずにいいました。社長には「自信がないときの小林」ということがわかりました。小林が元気のない声で続けます。

「できる限りいろんなセミナーに出たり、インターネット関係の本を読んだりして、ウチの会社だったらどんなインターネット活用ができるかを考えてみました。成功事例とかノウハウとかはなんとなく知ることができたんですが、『じゃあ、ウチの会社だったらこうしたら良さそうだ』というのがわからなくて・・」

 社長は小林の方をじっと見ていました。小林がウソをついていないのは明らかでした。実は、社長も小林と同じようにいろんなセミナーに参加したり、インターネット関係の本を読み漁ったりしていたのです。担当の営業活動もおこないながら、小林が努力をしていることは社長も十分理解していました。

「実はな、私もこの1か月間小林と同じようにセミナーに出たり、本を読んだりしていたんだ。でも小林と同じような状態だった。成功した会社があることはわかる。ノウハウがあることもなんとなくわかる。ただ、自分たちが明日どこから手をつければいいのか、それが良くわからない。もしかしたらそれは、我々の学びがまだ足りないだけなのかもしれない」

 社長の言葉を聞いて、小林がやっと顔を上げました。小林は社長の顔をみると、また斜め下を向きました。小林の頭の上から社長の言葉が降ってきました。

「それでな、小林。友人からこんなセミナーを紹介してもらったんだ」

 小林が顔を上げると、社長が右手に持ったチラシが目に入りました。チラシの真ん中に大きく書かれた「インターネットマーケティングの本質!」という文字が目に入りました。小林はチラシを社長から受け取って、文章を読んでみました。

――――
 インターネットマーケティングが上手くいかない理由は、成功事例やノウハウを知らないからではありません。成功事例やノウハウはすでに巷に溢れています。
 本当の問題は、自社のビジネスに消化できないことです。成功事例やノウハウから「原理原則」を学び自社のインターネット展開に活かしていく。そしてそれを「データ分析を元にして改善」していくことが大切なのです。
――――

 いままで参加したセミナーと同じようでどこかが違う。いままでは成功事例やノウハウやツールやシステムを聞きにいくセミナーだったけれども、「本当の問題はそこではない」と言い切っている。また、セミナー後に「個別相談」の時間を設けているようでした。

「社長、これって・・」

「このセミナーに小林と私で参加するのがいいかなと思った。来週の水曜日であまり時間もないけれども、アポの予定をなんとかすることはできないか?」

「やってみます!」

 小林にはウチの会社のインターネット活用に、何かの光明がみえそうな気がしました。いままで学んできた知識を元に、個別相談の時間で「どうやったら印刷会社のビジネスに繋げることができるか」を聞いてみよう。この1か月間、心の中に引っかかっていたものがどこか奥の方にスーっと落ちていく気がしました。

 そして、その後に心に浮かんだのが社長の優しさ。自分と同じように社長もこの1か月間学んでいたのだと思うとその気持ちに心があたたかくなります。小林の中で何かの緊張が解け、帰り道の電車で思わず涙をこぼしてしまいました。

「ウチの会社のインターネット戦略、絶対成功させるぞ」

 つづく。