著者:石田 麻琴

講演は参加者の皆さんがつくるもの。【no.1250】

(2017年のECMJコラムのリライトです)

 先日、上越市さんで講演の機会をいただいたんですね。私が販路開拓支援アドバイザーをつとめている中小企業基盤整備機構さんと上越市さんの主催する講演会でした。

 どうやらその日の調子がそこそこ良かったようで、講演後にいただいた参加者の皆さんからのアンケートでは「石田さんのテンポが良かった」とか「石田さんの歯切れが良かった」というような感想をいただきました。これは私にとってすごく嬉しいことではあるのですが、参加いただいた皆さんにひとつお伝えしたいことは・・

 「講演は参加者の皆さんがつくるもの」なんです―――ということです。

 つまり、この日の講演で私のテンポが良かったり、歯切れが良かったりしたのは、私が頑張ったからとか調子が良かったからではなく、参加者の皆さんが引き出してくれたものなんですね。まさしく「講演は参加者の皆さんがつくるもの」です。

 私自身、いままで何度か講演をさせてもらっていますが、けっして慣れることはありません。毎回、講演が開始するときは緊張しています。野球の先発投手の気持ちに近いかもしれません。立ち上がりはどの講演も思っていたようにはうまくいかないのです。

 しかし、その上手く話せていない中で、参加者の皆さんが「石田は何を伝えようとしているんだろう?」「石田が言っていることを理解してみよう」「ポジティブに話を聞こう」そんな雰囲気を出してくれると、自然に講演者の気持ちが乗ってきます。話のテンポが良くなったり、歯切れが良くなったり、質問に対してのズバリの回答を引き出してくれたりするのは、間違いなく参加者の皆さんなんです。

 伝える側の伝え方の上手さだけではなく、伝えられる側の聞き方の上手さで、もっと伝える側の「いい部分」を引き出すことができる。そう考えると、講演だけではなく、日常の仕事の中でもわれわれはもっと改善できることがあるように思えます。

 たとえば、部下から何か相談を受けたときの対応、または部下から何かの提案を受けたときの対応。部下の説明そのままだけを聞き、取捨選択の判断材料としてしまってはいないでしょうか。ポジティブな聞く姿勢を見せたり、伝える側をガイドするような質問をしたりすることでより「いい部分」を引き出せるかもしれません。

 たとえば、お客様への対応。お客様が質問する内容に、ただ返答するだけになっていないでしょうか。お客様はアマチュアです。あなたはプロフェッショナルです。お客様の質問は上手ではありません、なぜならアマチュアなのですから。プロフェッショナルであるあなたがお客様の「本質的な課題、悩み」を引き出してあげなければいけないのです。そこに気をつければ、お客様にとってだけではなく、自社にとっても有益な情報を得ることができるのではないでしょうか。

 部下から相談を受ける。お客様からの質問を受ける。それと同じように講演も、実は講演者と参加者の皆さんとのキャッチボールなのです。話す側は、参加者の皆さんが思っている以上に皆さんのことを見ています。そしてその中で伝え方を少しずつ修正していっています。やはり「講演は参加者の皆さんがつくるもの」です。

 以前、元ECMJ取締役で元ダイヤモンド社社長の故岩佐豊氏に、「講演のコツ」を伺ったことがあります。「いいか、石田。俺は話し始めて最初の5分で、会場を見回して良い反応をしてくれる人を探す。そして、その人に向かって話すようにする。そうすれば残りの時間、気持ちよく話せる」。岩佐さんほどの「講演のベテラン」でも、こんな工夫をしていたのです。