ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

ネットショップの「差別化」と「付加価値」を考える【no.2034】

 ネットショップの「差別化」と「付加価値」。

 Eコマース事業を成長させるための大切なキーワードです。今回は「差別化」と「付加価値」・考え方・具体事例について紹介をしていきます。

 まずそもそもなぜ「差別化」と「付加価値」が必要になるか。ここからスタートしていきます。

*市場の原理とインターネットの原理を考える

 昔も今も絶えず新しい市場が生まれています。その中には人々に注目され成長していく市場があります。日の目を見ることもなく人知れず消えていく市場もあります。はたまた一度は消えてもまた違うカタチで結果的に日の目を見る市場もあります。

 最初は小さな市場からスタートしたサービス。しかし人々の認知が拡大するとその市場は少しずつ大きくなっていきます。市場というのは「需要と供給」のバランスで成り立っています。

 スタートしたばかりのサービスは「需要<供給」のステージです。人々がサービスを知らないわけですから、需要が顕在化していません。人々がサービスを知るようになると需要が生まれます。「需要>供給」のステージに入ります。サービスの需要が顕在化すると市場ができます。「需要>供給」の市場に後発で参入する事業者が現れます。「需要=供給」を経て「需要<供給」に近づいていきます。

*Eコマースの市場環境はどうなっているのか。

 Eコマースの市場も例外ではなく、同じ流れをたどっています。日本のEコマースが本格的にスタートしたのは1998年頃。楽天市場の立ち上げが本格的に市場の成長するきっかけです。楽天市場の認知、ネットショッピングの認知が一気に高まったのは2004年頃のこと。「需要<供給」だったバランスが、「需要>供給」へとシフトしていきます。サービスの受信側(お客様側)の拡大は一気に進むのが通例です。

 2004年頃から2009年頃まで「需要>共有」の状態が続きます。ネットショップを運営している事業者からすれば「オイシイ」時代でした。ネット広告をかければ数倍の売上が返ってくる、もちろん利益が残った時代です。しかしそんな時代は長くは続かないのです。「需要>供給」の時代は次第に「需要<供給」の時代に入っていきます。

*インターネットビジネスの特徴を考える。

 顕在化した市場は「需要<供給」から「需要>供給」のオイシイ時代を経て「需要<供給」へと再び向かう。前者の「需要<供給」と後者の「需要<供給」はその性質がまるで異なります。そしてECを続ける上でおさえておかなければいけないこと。それは「供給」の拡大はインターネットの世界において「永遠に続く」ということです。

 これがネットショップではなく実店舗の場合、「供給」の上限が決まっています。供給側に入れ替わりはあっても、供給側が永遠に増え続けることはありません。ひとつは「商圏」があるからです。リアルビジネスには「商圏」があるため、一定数以上の競合がいると商売になりません。もうひとつは参入障壁です。ECは出店コスト・維持コストが低いので、ショップをつぶす必要性がありません。

 インターネット上には土地がなく、商圏もありません。出店と維持のコストもかかりません。「需要」は増えなくとも、「供給」は半永久的に増えていくのです。

*ネットショップの数は10倍になっても・・

 ネットショップは半永久的に増え続けていきます。インターネットは商圏のない仮想空間です。サーバーの数を増やすだけでネットショップは立ち上がっていくのです。

 これはYahoo!ショッピングの出店数をみれば明らかです。2013年のEコマース革命以前のYahoo!ショッピングは出店店舗数が2万店舗でした。「Eコマース革命」をYahoo!が打ち出して以降、出店店舗数は続伸し、約90万店舗のショップが存在していると言われています。

 ここで大切なこと。それは、ショップの数が10倍になったとしても、お客様の購買の金額は10倍にはならない、ということです。しかも実際には日本人の所得は減り続けています。マクロでいえば「需要」は縮小しているのに「供給」が拡大し続けているのがネットの世界なのです。

*「差別化」と「付加価値」が必要になる意味。

 マクロな目線でいえば、Eコマースはすでにオイシイ状態ではありません。Amazonという巨大勢力もあります。しかしEコマースは大手企業のものだけではありません。中小零細企業も創意工夫で戦えるのがインターネットという市場です。ミクロな目線で数パーセントでもシェアを取ることはまだまだ可能です。そのためのキーワードが「差別性」と「付加価値」です。

 2000年代前半のように「ネットで購入できる場所が楽天市場とヤフオクしかない」時代ではありません。楽天市場やYahoo!ショッピングもAmazonもメルカリもあります。またネットショップ自体の出店店舗数も増え続けました。

 Eコマースもすでにお客様側に選択肢のある時代です。「差別性」や「付加価値」がないとお客様に選び続けてもらえないのです。お客様はちょっとしたことで他のショップにうつっていってしまいます。

*お客様にショップを見つけてもらうために。

 ネットショップに「差別性」を持たせる意味はもうひとつあります。「差別性」がなければお客様に選び続けてもらえない。それ以前に、「差別性」がないとその存在を見つけてもらうことすら難しいのです。これはインターネットのマーケティングにおける本質的な話です。

 ネットショップは実店舗のように存在を目で見ることができません。実店舗なら興味があっても興味がなくても存在を目で見ることができます。しかしネットショップは興味がなければ存在自体を知ることができません。ここがポイントです。ネットショップはお客様に「探される」ことでその存在が成り立ちます。だからネットショップを立ち上げただけではお客様はアクセスしてくれないのです。いかに「探される」「目に触れる」機会をつくるかなのです。

 ネットショップの顧客像に「差別性」を持たせていれば、お客様が「探した」ときにネットショップがヒットする可能性が高くなります。たとえ「探す」お客様の数が少なくても、「目に触れる」機会が増えればアクセスされる可能性も高まります。他のネットショップと全く同じことをしていても仕方ありません。

*商品を自社でつくっているか、仕入れているか。

 ネットショップの「差別性」と「付加価値」を考える。その際のポイント商品を自社でつくっているのか、それとも仕入れているのかです。前者は必ずしもオリジナル商品に限りません。自社OEMの商品でもあてはまります。自社のネットショップ以外のネットショップでも同じ商品を販売しているのか否かです。

 インターネットの世界は商圏のない世界です。東京のお店と北海道のお店と沖縄のお店。リアルでは競合になりえないショップがネットでは競合になります。厳しいのは「競合も同じ商品を販売している」小売りのネットショップです。

 競合と同じ商品を販売しているなら、お客様の選択動機は価格かサービスです。価格競争に巻き込まれるか、サービス合戦に巻き込まれるのが関の山です。そうなると最終的に勝ち残るのは資本力のある会社ということになります。

 商材によって大資本が手を出さない、手を出すほどのボリュームがない市場もあります。そこに小売りのネットショップのチャンスがあります。

*横並びになったときに、お客様が選んでくれる理由

 商品自体で「差別化」が難しいとき、いかに自社のネットショップを選んでもらうか。同じ商品を取り扱っている5店舗が並んだときに、お客様に選んでもらうためにどんな理由をつくることができるか。商品自体でもいいですし、ネットショップ自体にでもいいです。どんな「付加価値」を提案できるかを考えましょう。

 「付加価値」を考えることのきっかけ。それは自分たちが「いま持っているもの」を見つめ直すことです。

 たとえば会社が50年以上続いていること。ネット専業の会社も多い市場で、信用してもらうための価値になります。たとえば実店舗がある。お客様が実店舗にくることはなくても、事業の実体性をアピールすることができます。たとえば自分たちのスタンスを伝える。たとえ他でも売っている商品を並べたショップだったとしても、そのセレクト理由を伝えることでお客様が共感をしてくれるかもしれません。

 どうしても「いま自分たちが持っていない新しいモノ」を考えがちです。しかしまず「いま持っているもの」を見つめ直して伝えることから始めてみてください。自分が当たり前だと思っていることも、お客様にとっては当たり前でなかったりします。とにかく「伝える」ことが大切です。

*地域という「差別性」を利用する

 ネットショップは「商圏」のない世界です。しかし、ネットはすべてのビジネスにとって「商圏」がないわけではありません。遠くにある会社さんには、ちょっとしたことで商談には行けません。催事やイベントなどおこなっていたとしても遠ければ参加することはできません。インターネットの世界でも「地域」というのはひとつの差別性なのです。

 またインターネットを活用していても、勝負を「リアルに持っていく」方法もあります。特にBtoBのビジネス。問い合わせ経路がネットだとしても商談を通じてビジネスが進むことが多いわけです。BtoCのほかにBtoBの窓口を用意しておくというのもひとつの方法です。

*コンサルティングをおこなうときに、まず最初に考えること。

 ECMJがまず最初に考えることもこの「差別化」と「付加価値」です。現状の商売をそのままインターネットに転嫁するだけで売上に繫がるだろうか。さらにお客様に選ばれるためにはどんな情報を露出・発信していかなければならないか。

 会社のいい部分は社内の人間は意外と気が付いていないものです。意外でもないのかもしれません。自分たちが普段接し続けている環境なわけです。外側から指摘をしないと「差別性」がわからないのかもしれません。「違い」があるにも関わらず、誰でもやっている「違い」を求めるのは勿体ないものです。

*事業を継続していることはネットでも必ずアピールをする。

 ECMJのコンサルティング先の8割は35年以上事業を継続している会社さんです。以前は100パーセントでした。事業が継続しているというのはそれだけでひとつの信用になります。実物を目で見ることができないインターネットの世界。だからこそ、より信用が重要なのかもしれません。

 ECMJのクライアントさんには100年以上継続している会社さんもあります。無条件でお客様にアピールをしてもらいます。また自社の歴史に関するコンテンツを作成することもおすすめです。商品企画が何を土台に成り立っているのかをお客様に伝えることができるのです。

*実店舗があればネットでも必ずアピールする。

 事業の継続と同様に実店舗があればインターネットでも必ず発信をしてもらっています。ネットショップですからお客様は近くに住んでいない可能性の方が高い。しかし、その実体性を伝えることが信用に繋がります。もしかしたら旅行などの際に実店舗にも寄ってくれるかもしれません。

 実店舗のある場所がブランドのある地域ならば、その地域もアピールした方が良いです。たとえば、家電の街といえば東京の秋葉原。秋葉原に実店舗を構えているショップであれば、それは無条件でブランドになります。東京だと宝石の街の御徒町、おばあちゃんの街の巣鴨。その地域のイメージをつくっているブランドがあります。皆さんの土地ではどうでしょうか。

*表彰や認定の実績があればネットでも必ずアピールする。

 たとえばモンドセレクション受賞やグッドデザイン賞受賞。仕入れ先としての正規代理店の認証やプラチナパートナーの称号。表彰や認定を受けた実績があればインターネットでも発信しましょう。表彰状や盾の画像をきちんと撮って目立つ位置に掲載することがポイントです。

 手前味噌ながら・・かもしれません。受賞したり、認定を受けたりするのが実は難しくないもの・・かもしれません。でもそれはあくまで「自社にとって」です。情報を受信する大多数のお客様はあなたのネットショップのことを知りません。受賞や認定はきちんと露出して、「違い」を伝えていきましょう。

*商品のこだわり、ネットショップのこだわりを伝える。

 オリジナル商品を販売している会社さんは商品のこだわりを語ることができるはずです。小売りのネットショップでも、なぜ商品をセレクトしたのかを語ることができるはず。従来のネットショップの売り方としては商品のこだわりを作り込むのがスタンダードです。自社のネットショップが「なぜ存在するか」もきちんと発信をしていきましょう。

 ほとんどのお客様があなたのネットショップのことを知りません。そして商品の知識もありません。自分の想像よりもレベルをグッと落として、情報発信をおこなってください。

*「差別性」や「付加価値」は、なければ自分でつくるしかない。

 しかし、すべての会社に「違い」があるわけではないと思います。

 事業の継続をアピールできない場合もあります。実店舗という実体性をアピールすることができない場合もあります。表彰や認定の実績、もすべての事業者さんにあるわけではありません。また競合ショップも同じアピールポイントを持っていたらその効果は薄くなります。

 いま自分たちが持っている「差別性」や「付加価値」で勝負ができなければ、さらなる「違い」を自分たちで作るしかありません。

*情報発信は努力次第でどんな事業者でもできる。

 ひとつのポイントになるのはインターネット上の情報発信です。

 自分たちの商品、サービス、ネットショップのこだわりを伝える。そのクオリティもさることながら、数で競合を圧倒していく。地味で手間で面倒な仕事ではあります。しかし逆にいえばその努力次第で必ず成果に結びつく仕事だといえます。誰でもできるようなことですが、誰もやらないのです。

 ひとつの「違い」の作り方として、情報発信の徹底的な強化は検討した方が良さそうです。

*お客様の目的、用途、課題解決を徹底的に分析する。

 仕入れた商品を撮影し、ネットショップに並べる。これだけで商品が売れていくならば良いのですが、そこに「差別性」や「付加価値」がないとお客様は私たちのネットショップを選んでくれさえもしません。小売りのネットショップは特に、その先にある何かが必要になります。

 EC事業者としては実店舗と同じように商品を並べているだけなのかもしれない。でも、お客様が商品を購入するには、何かの目的だったり、用途だったり、課題解決があるはずです。この商品はなぜ売れたのか。お客様はこの商品をどう使うのか。それを考えることが次のマーケティング戦略に繋がります。

 そのために重要なのは原因と結果だけではなく、結果と原因を探す努力をすることです。

*他のネットショップがすでに取り組んでいることでも・・

 なんとなく見えてきたお客様の目的・用途・課題解決あったとします。もし他のネットショップが取り組んでいたとしても、同じジャンルのショップでなければ気にする必要はありません。どんどん取り組んでいきましょう。むしろ、レディースファッションやスイーツなどのレッドオーシャンの市場を参考に、新しい販売方法を考えていけばいいのです。

 お客様の目的・用途・課題解決に合わせて販促企画を組む。目的・用途・課題解決に合わせて商品そのものを企画する。これはとても面倒なことです。自分の感覚だけで決めたサービスにお客様が反応をしてくれれば楽です。しかし手間で面倒だからこそ、チャレンジする価値があります。他のネットショップが「それは非効率」と考える。「費用対効果が合わなそう」と考える。「チャレンジする前に諦める」。こんなことこそ価値があります。「非効率」の先にある「効率」を見つけた事業者が勝ち組です。

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カテゴリー: 0.ECMJコラムALL, 2.Eコマースを続ける, 8.Eコマースの集客

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石田 麻琴 / コンサルタント

株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。中小機構販路開拓支援アドバイザー。