「思考」と「表現」の分離が、AI時代の可能性をひらく【no.2209】
AIが登場したことにより、人間は初めて「思考」と「表現」を切り離すことができるようになったのではないかと感じます。これまで人は、自分の頭の中で考えたことを、言葉や文章、図や絵、そしてデータ、あるいは画像や動画として「表現」しなければ他者に伝えることができませんでした。
つまり、どれだけ素晴らしいアイデアや壮大な発想を持っていても、それをうまく「表現」することができなければ、人にアイデアや発想を伝え、インパクトを与えることができなかったわけです。
逆にいえば、「表現」に長けていることで、実はそこまで深く考えていなかったことでも評価がされてきた歴史もあるかもしれません。もしかしたら、これまで世に出てきた多くの人は、単に「表現がうまい人」だったのかもしれません。本来の「思考」が優れていたとしても、「表現手段」が乏しかったがゆえ、埋もれてきた人も相当な数いたのではないかと思います。
*「思考」した時点で、実は終わっている
たとえばですが、私自身、セミナーや講演の準備でパワーポイントをつくる機会が多くあります。実際、パワーポイントをつくりはじめた時点で、みなさんに何を伝えたいか「考えること」についてはすでに終わっています。しかし、それをスライドに落とし込む作業や、デザインやレイアウトを整える工程に膨大な時間を取られる。これが現実です。
ここにAIが登場したことにより、状況が変わってきました。「思考」をAIが受け取り、「表現」へと変換してくれる時代がきたわけです。つまり、今まで多くの時間を要していた「表現作業」が一気に加速され、「思考」に近いスピードで社会にアウトプットを届けられるようになったわけです。深くたくさんの「思考」を持つ人間が、AIを通じてより早く、より多く深いインパクトを与えられるようになるということです。そして我々は、今まさにその分岐点に立っています。
かつてホーキング博士という偉大な科学者がおられました。ご存じの方も多いかと思います。体が不自由で、話すことができず、すべての「表現」をコンピューターを通じておこなっていました。もしも今、ホーキング博士がAIの時代に生きていたならば、もっと多くの「思考」を「表現」に変え、世界に届けられていたことでしょう。AIの価値は、まさにそういった「思考を持った人」が発信できることにあります。
*「思考」を高めることが人間の役目
ただし勘違いしてはいけません。AIは「表現」の補助にはなりますが、「思考」そのものをアウトプットするのは人間の領域です。現在のAIトレンドでは、そもそもの「思考」が薄いにも関わらず、優良な「表現」を求めてAIを使っているようなケースも散見されています。しかし、それは本質を見失っています。
これからの時代で問われるのは、人間が自分自身の「思考」を深める力ではないでしょうか。そしてその「思考」を社会に伝える「表現」のサポートをAIに託せる時代がやってきたのだと思います。
AIの時代、人間に「知識や知恵」が不要になるのではなく、むしろより必要になると考えられます。「知識や知恵」そして自分自身の「経験や体験」こそが「思考」となり、それがAIへのプロンプトになるからです。もしかしたら、AIの時代は、より「人間という生き物の本質」に迫られる時代になるのかもしれません。まさに「人間は考える葦である」ですね。
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